SITE MÉTÉORIQUE

Dépôt de Météorites

ケーブルカー乗り場

枯れた芝生のような、踏みしだかれた草に覆われた空き地が続いていた。片側は崖、片側は民家が並んでいて、その隙間に細く続く空き地は、K貝塚へと続く(実在しない)抜け道だった。私は母と一緒にその抜け道を歩く。母は、若々しいワインレッドのダウンジ…

空飛ぶ自転車

私たちは、大きく弧を描く形に整列した。その三日月型のパズルが揃うための最後のピースとなったのは私で、そのために教師に目をつけられたのか、いちばんはじめに指名された。北海道のような寒冷地で、イヤホンは機能を失うのかどうかと尋ねられた。私は答…

モルダバイトのピアス

モルダバイトのピアスを買った。かなり大きな丸いモルダバイトのまわりに、透明な小さな石が散りばめられている、太陽か、ひまわりを思わせるような形。深いグリーンが稀に見る美しい色だった。20万と端数という結構な値段にもかかわらず、私は何故か購入を…

渡し船

彼は船頭だった。木造の粗末な渡し船で、河の対岸へと客を渡す。はにかんだ笑顔。船を係留するロープを大切そうに束ね、命あるものを扱うかのように、優しい眼差しで見つめる。何気ない所作に、彼だけに固有の光が宿り、さらさらとその美しさが降り積もる音…

未亡人

愛する人に先立たれて、心から絶望しました。生きる希望を完全に見失い、何度後を追おうと思ったかしれません。それでも生きないといけないと思いました。そうしないと、あの人に怒られると思ったからです。これから新しい出会いがあれば、すぐにでもその人…

ブレーキを踏む

強くブレーキペダルを踏み込む。全身の力を右足に込めてぐっと踏んでいるのに、車にそれがうまく伝わっていない感じがする。車はするすると進み、前方の車すれすれでようやく止まった。ほっと胸を撫でおろす間もなく、信号が青になる。東インターチェンジ付…

花の形をした椅子

ホテルの部屋に母を残し、私は廊下へと出て、どこかへ向かっている。ホテルの建物は大きく、込み入った造りで、歩いているうちに私はどこへ向かっているのかよくわからなくなった。歩けど歩けど、同じようなところを堂々巡りしている。 ある階のロビーに、マ…

仮面の下

芸能人の集まる、演技大賞のようなイベントがあり、私は友人に誘われてその会場へ向かった。友人のコネで、限定のVIP席に座れることになっていた。誘った友人は来れなくなり、私は一人ぼっちで慣れない席に座るのに気後れを感じ、緊張していた。まだ開始まで…

待合室

古い駅舎の待合室のような場所にいる。旧式のストーブが焚かれていて、ガラス窓が白く曇っていた。私はなぜか、裸で毛布にくるまって、壁際のベンチでうずくまっている。待合室には数人の男性がいて、みな私を見て、見ぬふりをしている。新しく入ってきた旅…

マルーンの樹

マルーンは、父と二人で暮らしていた。人里離れた森の、丸木造りの小さな家。暖炉の前で、父はマルーンの長い髪を編んでいる。パチパチと薪が燃える音。温かい橙色の濃淡が、二人の頬に揺れている。まだ幼い彼女の髪はとても豊かで、腰よりも長く、深みのあ…

カーキ色のミリタリージャケット

犯人は足音を忍ばせて、自宅マンションへと近づく。海草がなびくようにするりと身を翻し、ドアの隙間に吸い込まれた。正確には彼は犯人ではない。犯人だと誤解されているだけだ。リビングには蒼く月光が差し込み、光は液体のように廊下まで溢れ出していた。…

自由という刑罰

脚本家Mが、高校の国語教師だった。彼の出した課題は、彼自身の書いた脚本を参考に、それに続けて小説なり脚本なりを書いてくることだった。一冊の分厚いノートが手渡された。ノートのはじめの数ページには、彼の脚本の登場人物が写真入りで紹介されている…

土曜日に塀を立てる

女優のHと私は、二人で歓談していた。たわいもない話ばかりだけれど、Hは親しみやすく、驕ったところの全くない人だったので、好感が持てた。彼女にとって日本語は外国語であるのに、それを気づかせないほど流暢に話した。いつの間にそれほど上手に話せる…

仙境に取り残される

蒼く蒼く沈んだ、神秘の湖の水面に、飛沫が舞っていた。子供たちが数人水遊びをしているプールを、私はぼんやりと眺めている。一般にイメージされる、賑やかで人工的、塩素の匂いがして単一的な色彩のプールとは、対極にあるような気配。幽玄の里とでも名付…

魂の造形

兄はいつも、私に対して、ひどい悪態ばかりついた。兄の言葉が汚く、ゲスな行動ばかり取るのは、自身の繊細すぎて厄介な内面を持て余しているからだと、私はよく知っていた。鉛筆のように自身を荒く削り、ようやく芯に火を燈すことができる。母や妹は、兄に…

子猫を保護する

デパートで待ち合わせして、学生時代の友人四人で昼食でも取る予定だったのだろう。私たちはエスカレーターを下りながら談笑していた。一通り館内を巡り、文字通りのウィンドウショッピングを楽しんだ。Hは以前よりスリムになっていて、そのせいか、すらっ…

スニーカーを磨き上げる

大きな陸橋を渡った先に、古めかしい石造りの建物がある。私は陸橋の手前でハンドルを握りながら、信号待ちをしていた。何度も時計を見れば時が速く進むというわけでもないのに、ひっきりなしに左手首の時計へと目を落とす。石造りの立派な建築物は、とある…

春めいた午後の沈黙

地図を見ると、栃木県か群馬県のあたりのようだが、実際の地図とは全く異なる、聞いたことのない地名、実在しない国道、見覚えのない図柄がそこにあった。 K君とその奥さん、私と、友人Sの四人で、国内旅行に行くことになった。K君が車を運転してくれて、…

デキルシン

某アーティストが、ニューシングル「できる心(デキルシン)」を発表し、それがドラマの主題歌に決定したと、テレビをつけたら流れてきた。そのドラマは、宇宙から来た〇〇から〇〇を守るため、〇〇となった主人公が、〇〇と戦うストーリーだと、ボードに書…

正反対のふたり

地元の学校が、私たち三年生が卒業すると共に閉校することになって、最後の謝恩会のようなものが開かれた。その教室は、カラオケボックスのような一室に変わっていて、薄暗い蛍光灯の下、十数人がセンターテーブルを囲んでいた。 私は、T君の隣りに座ってい…

色に染まらない者

スピリチュアルに関心のある人々が集うサイトを見つけて、コメントを書き込んだ。その内容は忘れてしまったけれど、翌日それに対して、サイトの運営人から返事があった。当たり障りのない言葉をさらにオブラートに包んだような、歯切れの悪い言葉が並んでい…

交換日記

黒い表紙の分厚いノートが送られてきた。ベルベットのような手触りの黒の表紙に、黒のゴムがかけられた、B5サイズ程の立派なノートだった。それは、Y君と私の間でやり取りされている交換日記のようなものだった。ノートはすでに厚みの半分ほどまで、ぎっし…

電脳銀河に融ける

高卒認定試験を受ければ、高校に通わなくてもいいんじゃないか? そんな考えが突然湧いてきて、私はまるで天啓でも受けたように厳かな気持ちになった。なぜ今までそれに気づかなかったのだろう。すごいことに気がついてしまった! ターコイズブルーのiMacを…

闇に沈みゆく岩

歯科医に行く時間が迫っていた。3時20分の予約で、もう間に合いそうもない。鉛のような脚と心を奮い立たせて、私はようやく歯科医院まで辿り着いた。いつものように受付を済ませ、いつものように待たされる。一秒一秒が身体に食い込むように通過していく。な…

母と娘

そういえば、ネット通販で注文したものが届いていない気がする。期日指定で届くはずになっていたのだけれど、いつだっけ? もうとっくに予定の日は過ぎているのでは? 急にそのことが気になった私は、なぜか近所のIさんの家に確認に行った。角を曲がり、も…

巨大な弓のような虹

南の島のリゾートらしき場所。高層階にある、室内の温水のプール、あるいはお風呂なのかわからないが、私はそのお湯に浸かりながら窓の外を見ていた。一面のガラス窓の外には、遥か見渡す限りのブルーラグーン。その手前には様々な形のプールや遊園地のアト…

記憶を閉じ込める引き出し

机の引き出しに、えんじ色の封筒が入っていた。周囲に細やかな金のエンボス加工がされている、綺麗な封筒だった。見覚えがないので、怪訝な気持ちで手にとった。宛先は間違いなく私だった。 中の便箋には、先日はレストランに来てくれてありがとう、あまり会…

汚物を美しい箱に入れる

こんな恋愛ドラマを観た。 彼女は、彼の排泄物を自分の服になすりつけていた。アイボリー色のコートから始まり、全身になすりつけ終わって、彼女はようやく安心したというように、仄かな微笑みを口元に浮かべた。それは、彼女なりの愛情の表現だった。彼の中…

卑屈になる覚悟をする

熊を飼うことにした。誘惑に抵抗することが出来なくて、とうとう熊を家へ連れてきた。黒い大きな体を揺らして、熊は私の与えたごはんを美味しそうに食べた。熊はとても大きいので、居間に彼がいると家が狭くなったような錯覚に陥った。 猫のシルくんは、熊を…

スロットマシンで高得点が出る

気づくと、隣にK君が寝ていた。なぜだかはわからないが、他にも何人かが私の部屋に散らばって寝転がっていた気がする。夜中に起き上がった彼は、枕元に置いてある私の化粧品の瓶を幾つか倒してしまった。瓶と瓶がぶつかり、冷たく尖った音が響いた。彼は、…