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Dépôt de Météorites

幸福という痛み

『風立ちぬ』 堀辰雄 読了した。遠い昔に読んだような読まなかったような。殆ど覚えていないので初読と言ってよかった。 この作品は、生と死の意味を問う作品とされているようだけれど、それ以上に、私にはこれは恋愛の小説、しかもある意味で一方通行の愛を…

美男と醜女

『亡き王女のためのパヴァーヌ』 パク・ミンギュ著 読了した。 かつて私が接したことのあるあらゆる作品で、人間の容貌の「美醜」という価値観は深く掘り下げられることなく、美しい女性というものは美しさという一点において、単純に価値があるものとされて…

記憶という幻影

『殺人者の記憶法 新しい記憶』 ソル・ギョング主演、2017年の韓国映画を観た。 一筋縄ではいかない、センセーショナルな内容。「殺人者の記憶法」と「殺人者の記憶法 新しい記憶」という編集違いの二種類の作品があり、前者は一般向け、後者はコアな映画好…

星へ梯子をかける

『グレート・ギャツビー』 スコット・フィッツジェラルド著 村上春樹訳 読了した。まだ十代の頃、古典的な名作と言われるものは片っ端から読んでみようとしていたその頃読んだ中の一冊に、この小説もあった。翻訳文学ならではの、回りくどいような何とも言え…

無償の愛の形

『母なる証明』 2009年、ポン・ジュノ監督作品を観た。「グエムル」は、私にはあまり良さが理解できなかったので、この監督さんは苦手かも……と思い込んでいた部分があったけれど、それは巨大な間違いだった。 映像における文体のようなものが全面に出てきて…

ときめきを冷凍保存したい

『隠された時間』 2016年の韓国映画を観た。カン・ドンウォン主演。ただのファンタジーでは終わらない、心を鷲掴みにされるような甘美な映画だった。下手な恋愛映画よりずっと心に滲み、胸が震えた。初恋の人が時を経て、もっと素敵になって突然迎えに来てく…

社会の奴隷から脱皮する

『コンビニ人間』 村田沙耶香著 読了した。 この登場人物を見て、ちょっと変わったおかしな人、普通じゃないけど面白い人、と思うなら、その人はこの社会を上手に泳ぎ、疑問を持たず、不自由することなく生活できている人なのだろうと思う。私はこの主人公を…

本物のユートピア

『ギヴァー 記憶を注ぐ者』 2014年の映画を観た。メリル・ストリープ ジェフ・ブリッジス出演。 ディストピアに住む人は、そこがユートピアだと信じている。だからその世界はディストピアであり続けることができるのかな、と感じた。過度に統制され管理され…

ぺしゃんこになった顔の愛おしさ

『カステラ』 パク・ミンギュ著 読了した。誰にも似ていない、唯一無二の個性的な文章だなと思った。とてもポップでシュールで、リズムのある文体。圧倒的と言えるほど独特の世界観が確立されているところは村上春樹っぽいかなとも思ったけど、またちょっと…

集団のなかの無感覚

『少年が来る』 ハン・ガン著 読了した。 この作家さんの作品は、『菜食主義者』『すべての、白いものたちの』に続き三作目。詩的で静謐さを湛えた文章と、軍事政権下の弾圧という内容は全くマッチしないような気がしていて、読む前にはどんな内容になってい…

多くを与えられすぎた罰

『バベル』 2006年の映画を観た。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督作品。 バベルの塔が崩れて、言葉が通じなくなった。現代人も天まで届く塔を建てようとした。言葉は既にバラバラでこれ以上奪えない。それでは今度は何を奪われるのか。当たり前…

最も美しい愛の在り処

『愛、アムール』 2012年、ミヒャエル・ハネケ監督作品を観た。カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品。あまりに重く、消化しきれずにところどころ休みながら、時間をかけて鑑賞した。 知的で穏やかな老紳士が、壮絶な介護によって、少しずつ、少しずつ追…

持てる者のヘゲモニーが僕らを苦しめる

韓国ドラマ『バリでの出来事』 視聴終了。 貧しい男女と裕福な男女、四人が織りなす愛と嫉妬の複雑に絡み合う人間ドラマ。愛憎劇の傑作との呼び声が高い作品。十五年近く前にも一度見ていて、今回は二度目。 裕福な者が貧しい者を虐げる、格差社会の構造を描…

残酷すぎる現実を動かすために

『トガニ 幼き瞳の告発』 2011年の韓国映画を観た。あまりの怒りで涙が止まらないという体験を、多分初めて味わった。これを書きながらまだ心が震えている。同名の小説が原作で、実話を元に構成された作品だそう。こんなにも悲惨な現実が本当にあった事だな…

記憶は愛より悲しいもの

『傷だらけのふたり』 2013年の韓国映画を観た。本当に泣ける映画というのはこういう映画のことを言うのだろう。ベタな展開だなと思いながら観て、それなのに最後は見事に泣かされてしまった。主演のファン・ジョンミンが素晴らしかった。お涙頂戴で、さあコ…

顔のない人間

『絶対の愛』 2006年のキム・ギドク監督作品を観た。冒頭は、整形がもてはやされる外見至上主義に警鐘を鳴らすような内容なのかと思ったけれど、流石に数段奥が深かった。 顔を変え、名前を変えたら、元の人間性をよく知っていたとしても、その人がその人だ…

白さの果てにあるもの

『すべての、白いものたちの』 ハン・ガン著 読了した。 白いものたちを一つずつ連ねて、丁寧に丁寧に編んだ、ネックレスのような作品。読み進めるうちに、白さが一枚ずつ増していき、やがて世界中の「黒」が「白」に反転してしまったような錯覚に陥った。 …

地球上の常識を痛烈に笑い飛ばす

『美しき緑の星』 この映画はもう何回か観た。1996年、コリーヌ・セロー監督・主演のフランス映画。長い間発禁になっていて、ネットに上がってもすぐに消されてしまったらしい、いわく付きの作品。今はDVDも売っているらしくて、びっくり。 物質文明をはるか…

研ぎ澄まされた緊張が解き放たれる瞬間

『弓』 キム・ギドク監督の2005年の映画を観た。 舞台である大海原をたゆたう船と同じく、夢幻の中をたゆたうように、物語は独特のテンポで進む。原色の散りばめられた背景。極彩色の仏画──。老人と少女は、世界と隔絶された一艘の船の上で生きている。そこ…

陽光と交わる花

『菜食主義者』 ハン・ガン著 読了した。アマゾンのカートに入れっぱなしにして三ヶ月ほど、ようやく勇気を出した。以前にも少し触れたけれど、この作品を映画化した『花を宿す女』を先に見て大変な衝撃を受けていたので、強く揺さぶられるのが怖くてなかな…

罪を赦されるということ

『一房の葡萄』という有島武郎の短編が好きだった。何百回と読んだので子供の頃はほとんど暗唱できるほどだった。赦されるという体験を求めて、私は何度でもその本を読んだ。 絵の好きな少年は、港に停泊している外国の艦船の絵を描きたかったけれど、舶来の…

圧倒的な存在感と、強さと儚さのコントラスト

韓国ドラマ『ミスティ』 視聴終了した。職業人としてのドラマであり、情愛のドラマであり、良質のミステリーでもあり、社会悪と戦う内容もあり、その全てが食い合うこともなく、分散して焦点がぼやけることもなく成り立っている、稀有なドラマだった。 野望…

決して怒らない男

『愛してる、愛してない』 2011年の韓国映画を観た。ヒョンビン、イム・スジョン主演。ベルリン国際映画祭にも出品された作品だそう。 「あなたは生まれつき怒らない人なのか、怒っていてもそれを我慢できる人なのか」と女は問う。「怒ったとしても、何も変…

照れと信頼と愛に満ちた顔

『ポラロイドに託す想い』という一時間の単発ドラマを観た。配信していたのをたまたま見つけ、観てみたら期待以上に素晴らしくて。 余命幾ばくもない、離婚した妻のポラロイドカメラを手にした夫。シャッターを切ると過去へとタイムスリップし、時を跨いで妻…

大切なものに接するのが怖い

とても久しぶりに聴いた キリンジ『エイリアンズ』 異次元にあるもう一つの地球にワープしてその星の上でふたりきり 近未来のざらっとした粒子の粗い空気ダークチョコレートのほろ苦さ コンクリートに打ち捨てられたタバコの吸殻や 吐き捨てられたガムまでも…

世界の最後の黄昏

マドリードに行った時近郊のセゴビア旧市街地の夕暮れに他の国では感じたことのない色彩を感じた 深い悲しみを帯びたように すべての影が特別に色濃いその場所でかつて流された血の総量が抜きんでて多いかのようなそれはフラメンコや闘牛といった文化の持つ…

植物として生きる

最近、韓国映画「花を宿す女」を観て衝撃を受けた。韓国を代表する女流作家ハン・ガンの「菜食主義者」が原作で、あまりに衝撃的だったので原作を読みたくなったものの一方で読むのがとても怖く、アマゾンのカートに入ったきり。 ごく普通に生きていた女性が…